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特別講演
『痴ほうの世界を理解する』
−よりよい介護を目指して―
神戸大学大学院医学系研究科 精神神経科学分野
講師 柿木 達也 先生
1)「もの忘れ」の1/2はアルツハイマー病
「もの忘れ」には、加齢による自然な良性健忘と、病的なもの忘れがあります。ストレスや疲れからでも「もの忘れ」は出ます。そういった良性健忘はだれにでもあり、心配する事はありません。良性と病的な違いは、自覚の有無・原因が病気かどうか・進行性かどうか等です。
病気性の場合、脳血管障害型・行動異常が特徴のピック病・幻視が特徴のレビー小体型などがありますが、約半分がアルツハイマー病といわれています。
痴ほうには大きく分けて、血管障害型とアルツハイマー病(アルツハイマー型)があります。
アルツハイマー病は、アロイス・アルツハイマーが1907年に初めて論文発表しました。

≪脳内≫
脳に於いては、神経原繊維変化が多数見られます。アミロイドβ蛋白の蓄積がみられ、老人斑が多く見られるのも痴呆患者脳の特徴です。
また全般的に神経細胞の脱落・変性が見られますが、特に変化が見られるのが、アセチルコリンなどを分泌する神経細胞群の障害や機能低下です。
(痴呆脳のCT写真例による 海馬の萎縮や大脳皮質全体の萎縮・側脳室の拡大・進行の度合いなど提示)
アルツハイマー病は診断されて、初めて治療法を決定できます。
検査法
検査の項目
@ 見当識確認 (時間や場所の認識)
A 簡単な計算ができるか
B 記憶能力 (5分後に机上の物をおぼえているか)
C 脳のレントゲン写真(CT・MRI)及び脳血流の測定
D その他
アルツハイマー病の場合、学習能力が落ちています。練習しても成果が上がりにくいので、上記@〜Bが練習によって変わることはありません。
MMS・・・見当識・記名力・計算・理解力・図形模写能などの簡易知能テスト
30点満点 24点以上を正常(前痴ほう)/23〜15点中等度(軽症痴ほう)/14点以下高度低下(重症痴ほう)
長谷川式簡易痴ほう評価スケールの概略
質問点数の指標
- 自分の年齢は?,誤差2歳までなら1点
- 今日は何年何月何日何曜日か, 正解年/月/日/曜日で1点
- 今いる場所は?, 自発的2点 5秒おいて3択1点
- 関連性のない3つの言葉を復唱, 正解各1点
- 100から7を順番に引く(100−7と93−7), 正解毎に1点
- 提示数字を逆から逆唱(3桁と4桁), 正解毎に1点
- 先ほど覚えてもらった関連性のない言葉を再復唱,
自発的2点 ヒントを与えて正解1点
- 品物5つを見せてそれを隠しあった物を答える, 答えられた数だけ得点
- 知っている野菜の名前を出来るだけ多く言う,
10以上5点 9=4点 8=3点 7=2点 6=1点 5以下0点
検査時は、テストされる感じでは動揺が起こり、正確な評価が出来ません。リラック
スした雰囲気で行う事が大事です。
合計点数が24点以上であれば、痴ほうの心配はありません。23点以下の場合は、治療
対象になります。
2)家族が気付いた日常生活上の変化
初期のころ、アルツハイマー病は、頭頂葉の働きが悪くなります。
アルツハイマー病は、脳細胞の萎縮が特徴ですが、この萎縮は、新しい記憶を定着させる『海馬』から始まります。進行速度に多少の差はありますが、必ず進行します。
家族が気付く日常生活上の変化をみてみましょう。
同じことを言ったり聞いたりする , 記憶障害
置き忘れやしまい忘れが目立った
蛇口やガス栓の締め忘れが目立った
物の名前が出てこなくなった
日課をしなくなった, 実行機能障害
時間や場所の感覚が不確かになった, 時間・場所の見当識障害
以前はあった関心や興味が失われた, 実行機能障害
アルツハイマー病の主症状は、
- 『見当識障害』 日付や時間、季節、場所、人がわからなくなる
- 『判断力の低下』 お金の支払や状況判断が出来ない。物事の段取りが出来ない
- 『言語の障害』 相手の言葉が理解できなくなったり、適切な言葉が出てこない
の3つが挙げられます。
記憶障害の特徴は、最近の記憶・行動全体を忘れます。悪気はなく、「物忘れがひどい」自覚はありません。物忘れしている事自体を忘れています。
病初期には短期記憶障害に基づく「物盗られ妄想」やうつ状態、怒りっぽくなるなどがみられます。
行動障害としては、幻覚(幻視・幻聴)・妄想(もの盗られ妄想など)・徘徊(帰り道がわからなくなり、一人でさまよい歩く)・拒否(介護へ抵抗)・興奮(急に怒り出し暴力に及ぶ事もある)・夜間不眠(昼間居眠りやボーとするが夜眠れない)・失禁(尿意を感じないので尿をもらす)・不潔行為(便器以外で排泄・弄便等)などがあり、拒否から失禁や不潔行為など介護者にとって大変困った事が起こります。順序が立てられなくなり、作業効率が極端に悪くなります。意欲がなくなったり、普段出来ていた事が出来なくなったりします。
3)介護のポイントは『今が大事』
介護していると、他人にはよそ行きのかおをするのに、身近な人には不快な態度をとったり、もの盗られ妄想のような場面にあうと、つい怒ってしまったり、相手の感情を害する事があります。
しかし、知的能力は低下しますが、感情的な能力は低下しません。
本人は、学習能力が落ちていますから、言っても学習しません。自分を守る本能は残っているため、自分を正当化しようとしますから、感情的なしこりだけが残ってしまいます。何もわからない人ではないのです。お互いに感情的なしこりは残さないようにしましょう。
近時の記憶はありませんから、やった事を叱っても本人はなぜ叱られているのかわかりません。叱るより、忘れやすい特徴を使って、「お茶でもいかが?」と気分の転換を図ることの大事です。
『今が大事―満足・安心できることが大事』です。過去を問題にしないことです。
介護者の訴える介護負担
この先病状の経過がわからない・自分の時間がない・意志の疎通がはかれない・介護
作業への不満・介護者の身体不調など色々な問題があります。
日常診療での介護者への対応
- 介護の大変さに共感する事
- 介護環境を見定める事・・・介護者の不健康・補助介護者の不在等
- 在宅介護の強要は禁物・・・激励より負担軽減する方法を考える
- 社会資源の十分な知識を与え、有効に活用する
- ADL(日常身体機能)が低下していることを考慮する事
4)いつまで介護しなければならないのか
アルツハイマー病の介護をしているといつまでこの状態がつづくのかと暗澹とした思いに駆られることがあると思います。アルツハイマー病は進行性の病気で、ある程度病態変化の期間が予測できます。
MMSや長谷川式簡易痴ほう評価スケールで1年間に2点〜4点ぐらい下がっていきます。
≪進行≫
早発性痴呆症(65歳までに発症)の場合は4〜5年で寝たきりになります。
70歳〜80歳の方の場合は、7〜8年でお亡くなりになるケースがほとんどです。内臓が丈夫な方で20年生きられた方もありますが・・・
徐々に発動性がなくなっていきますので、今をどう過ごすかが問題になります。問題行動は数年しか続きません。
健忘期(記憶障害・失計算・失行)→混乱期(失語・失見当・徘徊・精神錯乱・夜間せん妄)・幻覚)→痴呆期(高度の認知障害・失禁)と移行しますが、一番介護者の手を煩わせ、援助が必要で大変な時期は、混乱期です。ところが、この時期は、身体能力はさほど落ちていません。介護保険は、身体機能能力を元に要介護度が判定されますので、痴呆者の要介護度は低く判定されがちです。これから、改善されていくとは思いますが、なんとかしなければいけない問題だと思います。
MMSE(痴ほう評価テスト)
20点(物忘れがひどくなる)14点(いろいろな問題)10点(行動異常)
5点(完全介護が必要)2〜3点で死亡
5)治療法の見通し
アルツハイマー病の危険因子として、
1.加齢 2.性別(女性) 3.痴呆性疾患の遺伝歴 4.頭部外傷 5.アルミニウム被爆 が挙げられます。
アルツハイマー病とアルミニウムが関係するのではないかと良く質問されるのですが、動物実験では、相関関係が疑われるデータもあります。透析を受けておられる方は、アルミニウム製剤を使用しますので、気になるところかと思います。もし、アルミニウムと痴呆が関与しているとしたら、ジュース類やアルミのなべで調理したものはどうでしょうか。ケイ酸とアルミニウムを併用して使うと、アルミニウムは吸収されにくくなります。ちなみに、ビールにはケイ酸が入っています。アルミ缶ビールは安全ということになるのでしょうか・・・。

≪シナプス≫
現在アルツハイマー治療薬としては、唯一、塩酸ドネベジル(アリセプト)があります。
アルツハイマー病では神経細胞シナプス間のアセチルコリンが減少していきます。この薬は、アセチルコリンエステラーゼという酵素の酵素反応を阻害し、アセチルコリンがアセチルコリンエステラーゼによって分解されるのを阻害して、シナプス間のアセチルコリンの量を増加させます。不足していくアセチルコリンを補充するものですから、継続して服用する必要があります。
この薬を服用していても、神経細胞萎縮は起こりますので、症状の進行を遅らせることは出来ますが、完治する事は出来ません。しかし、服用を中止すると、急に進行して能力が落ちます。
6)アルツハイマー病の予防法
アルツハイマー病になりやすい傾向の特徴は、頑固・社交的でない・整頓癖・臆病・わがまま・短気・無口・融通が聞かない・気性が激しい・女性・糖尿病・心臓症・脳血管障害・強度の頭部怪我・高血圧などの疾患等があります。
痴呆になりにくかった性格特徴は、明るい・正義感が強い・社公的・行動的・開放的・積極的であることです。
現在、欧米ではこの種の薬剤がいくつか許可され、γセクレターゼ阻害剤の開発やAβワクチンの臨床試験など治療薬が開発中です。遺伝子レベルでの解明も進んできており、2024年には完全な予防法の確立がなされる見通しです。みなさん、2024年までがんばって乗り切ってください。(^^)
積極的な老後を目指しましょう。
神戸市老人性痴呆疾患センター(神戸市立西市民病院老人性痴呆疾患センター)
専門医療相談 078−579−1946(無料) 月〜金 9:00〜15:00
鑑別診断 毎週木曜 (予め当院 精神・神経科を受診ください)
保険診療扱い
地域医療連携室 痴呆性疾患についての他、様々なご相談に応じます
物忘れ外来(鐘紡記念病院精神神経科)
078−681−6111 毎週木曜 12:30〜15:30
メモリークリニック(神戸大学医学部付属病院精神神経科)
078−382−5111 毎週木曜 午後 (初診は11時までに受診手続きをしてください)
痴呆の家族会も開かれている。保険診療の薬剤以外の治療も希望者には対応可能
世界アルツハイマーデー特別番組「もの忘れ、始まっていませんか?」
2001年9月16日(日) 16:00〜17:15 テレビ東京系全国6局ネット(テレビ大阪)
兵庫区薬剤師会ームページ 介護のページ(http://www.netkobe.gr.jp) 2001年3月号
「 最近のアルツハイマー治療薬について」
質問コーナーより
1) 進行を遅らせる方法はありますか
身体的な健康を保つ事と薬剤療法があります。講演でもお話したドネベジル(商品名アリセプト)は進行を遅らせる治療薬です
2) ならないようにするにはどうしたらよいですか
痴ほうになりやすい性格があります。生活習慣病出ない人や、社交的な人は痴ほうになりにくい傾向があります。明るく楽しく、健康に過ごす事が大事です。また計算をするなど頭を使う事も大事です。
3) 介護者が高齢で障害があり大変。施設に入れたいが、身体機能は悪くなく、たまに時を書いたり言葉がはっきりしていたりで、要介護度が低く認定されるのではないか心配。どう対処したらよいか。
まずは介護認定を受けましょう。介護認定は、1回決まればずっとそのままではありません。何度も見直しがされますので、とりあえず、認定申請をしてください。認定判断材料の中に、主治医の意見があります。十分に現状を主治医やケアマネージャーに報告してもらう事が大事です。
4) 糖尿病と痴ほうの関係について注意する事は?
痴ほうになりやすい要因の一つに糖尿病があります。体重増加には特に気を付けてください。
5) アルツハイマー痴ほうU期というのはどんなものか
アルツハイマーの診断法は数種類あります。第1期から第5期まであるいは第1期から第3期まで進行度合いによってわける場合があり、そのステージの2期ということかと思いますが、はっきりとはわかりません。
=参考=
問題行動の出現時期を3期に分けた分類があります。
第1期(1〜4年) うつ状態・人格の尖鋭化(攻撃/興奮など)近時記憶の障害(物
取られ妄想など)
第2期(2〜8年) 夜間せん妄・幻覚(幻視>幻聴)・徘徊
第3期(8〜12年) 痙攣発作・第2期の症状が続く事もある
6) それぞれの痴ほう段階での対処に仕方を教えてください
痴ほう症状の出方は個々のケースで違います。その方の生活環境によっても対処に仕方は違いますので、主治医や介護相談者にご相談いただくのがベストだと思います。
7) 漢方薬などの民間療法は効果があるのですか
民間療法では、イチョウ葉エキスや釣藤散などは医学的にある程度立証されているようです。民間療法が効果があるかどうかは、わかりませんが、医学的な根拠は確立されていないものがほとんどです。同時に副作用などのデータも明示されていません。使用するかどうかの判断は、個人にお任せします。
しかし、老人性うつ病などの可能性もあり、独自で判断せず、まずは受診して、診断をつけてもらうことが大事です。
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